第1回
浅川の野鳥・今と昔
                                 日野の自然を守る会 金子凱彦

はじめに
 コロナ禍で自粛の昨今ですが、これを機会に断捨離をしようと身辺整理を始めました。
その中で思わぬ拾い物?もありました。80冊ほどの古い観察手帳です。1970年代からの
Memoで浅川の野鳥の記録が多く残っていました。現在私が浅川で行っているロードセン
サスと同じコースの記録が1976年からありました。中断もありますがほぼ45年間の浅川
の記録になるかと思い、まとめることにしました。ただいっぺんには無理なので、現在
(2021年)と昔(1976年)を比べながらHPで順次報告したいと思います。
 
昔と変わらぬコース 
 浅川は陣馬山麓に源を発し八王子市、日野市を流れ多摩川に合流する延長約30kmの
一級河川です。調査方法は浅川左岸の日野市民プール(川辺堀之内190番地先)から上流
の一番橋を通り運動場・豊田児童グランド(多摩川との合流点から上流へ4.4kmの位置)
までの1.5kmを歩きながら、野鳥の種類と数を記録するのです。できるだけ河川敷を歩
くので長靴は必携で、時には双眼鏡だけでなく三脚を立てて望遠鏡も使いました。当時の
堤防は現在のように舗装されていなく、自転車で通るのも危険という時代もありましたが、
浅川をとりまく自然環境は今日と比べはると遥かに多様性に富んでいました。
 
今と昔を比べると…
 昔に比べ野鳥の種数、個体数は減っています、特にカモ類、シギチドリ類の減少は顕著
です。記録されたカモは15種ほどですが、現在はカルガモをはじめ数種が時々観察される
だけで、数も極めて少なくなりました。シギチも15種ほど記録されていますが、今、観察
できるのはイカルチドリ、イソシギ、コチドリ(夏鳥)、ムナグロ(旅鳥)、タシギ(冬
鳥)で、数も減っています。
 逆に新しく浅川に姿を現した鳥たちもいます。大きな水鳥のカワウやアオサギで、今や
浅川では常連の鳥で、調査の時の出現率100%です。さらに特筆すべきは食物連鎖の頂点
に立つワシタカ類が浅川にたびたび姿を現すようになったことです。特にオオタカの出現
は45年前には想像もできなかったことです。
 次に昔と現在の調査記録を紹介します。なお1976年の3月は1回の調査だったので、翌
1977年3月の記録も参考までに掲載します。
 
昔の<調査>結果 
1976年3月10日 <調査時間>7:45~9:00
①コサギ15 ②カルガモ28  ③コガモ92 ④オナガガモ91 ⑤コジュケイ2 
⑥コチドリ3 ⑦イカルチドリ1 ⑧イソシギ4 ⑨タシギ2 ⑩ユリカモメ14 ⑪キジバト18
⑫ヒバリ12 ⑬キセキレイ1 ⑭ハクセキレイ7 ⑮セグロセキレイ7 ⑯タヒバリ12
⑰ヒヨドリ2 ⑱モズ1 ⑲ツグミ32 ⑳ウグイス1 ㉑シジュウカラ7 ㉒ホオジロ5
㉓カシラダカ1 ㉔アオジ3 ㉕カワラヒワ43 ㉖スズメ119+㉗ムクドリ1 ㉘オナガ1
㉙ハシボソガラス3 以上29種529羽 ※配列は当時の日本鳥類目録によります。

1977年3月19日 <調査時間>7:40~9:20  
⓵ダイサギ1 ②コサギ9 ③マガモ2♂♀ ④カルガモ52 ⑤コガモ179 ⑥ヒドリガモ15
⑦オナガガモ162 ⑧ハシビロガモ2♂♀ ⑨コジュケイ2 ⑩クイナ1 ⑪イカルチドリ4
⑫イソシギ3 ⑬タシギ3 ⑭ユリカモメ6 ⑮キジバト30 ⑯カワセミ1 ⑰ヒバリ11
⑱ツバメ3 ⑲ハクセキレイ14 ⑳セグロセキレイ2 ㉑タヒバリ34 ㉒ヒヨドリ1
㉓モズ1♂ ㉔ジョウビタキ1♂ ㉕ツグミ42 ㉖ウグイス1 ㉗セッカ1 ㉘ホオジロ9+
㉙ホオアカ1 ㉚カシラダカ17+㉛アオジ1 ㉜カワラヒワ51+㉝スズメ146+
㉞ムクドリ21 ㉟ハシボソガラス3 以上35種732羽

1977年3月26日 7:15~8:45 
⓵コサギ4 ②カルガモ22 ③コガモ101 ④ヒドリガモ13 ⑤オナガガモ19
⑥ハシビロガモ8 ⑦コジュケイ1 ⑧クイナ1 ⑨タマシギ2 ⑩コチドリ2
⑪イカルチドリ4⑫タシギ1 ⑬ユリカモメ12 ⑭キジバト21 ⑮カワセミ1 ⑯ヒバリ20
⑰ツバメ1 ⑱キセキレイ2 ⑲ハクセキレイ14 ⑳セグロセキレイ1 ㉑タヒバリ20
㉒ヒヨドリ3 ㉓モズ1♂ ㉔ツグミ40 ㉕シジュウカラ1 ㉖ホオジロ2 ㉗カシラダカ13
㉘アオジ4 ㉙カワラヒワ36 ㉚スズメ63 ㉛ムクドリ14 ㉜ハシボソガラス1
以上32種440羽

<76年77年の記録より>
 コガモ、オナガガモ、ツグミ、カワラヒワが、今日では想像もできないほど数が多かっ
たのです。カモたちは水面にびっしりという情景でした。トビが上空を飛んでもカモは動
じません、トビは無害?と知っているからでしょう。
 タマシギは一番橋や豊田小学校前(南側)から浅川一帯に広がる田圃にいました。河川
の多様性は後背地ともいえる水田の存在を抜きには考えられません。この水田の喪失が浅
川の野鳥、特にシギチが減った要因の一つでしょう。タマシギは1975年~1979年の3月~5
月に観察されていますが、以後の記録はありません。
 当時ダイサギは極少なく、3月19日に下流に飛ぶ1羽を観察しただけでした。現在は逆で
ダイサギが主流でコサギは稀です。

今の<調査>結果
2021年3月12日 <調査時間>8:35~10:10
①キジ1 ②カルガモ2 ③キジバト3 ④カワウ2 ⑤アオサギ7 ⑥ダイサギ8 ⑦モズ2♂
⑧ハシボソガラス8 ⑨ヒバリ2 ⑩イワツバメ12 ⑪ヒヨドリ2 ⑫ムクド31 ⑬ツグミ3
⑭ジョウビタキ1♀ ⑮スズメ11 ⑯ハクセキレイ7 ⑰セグロセキレイ3 ⑱カワラヒワ10
⑲ホオジロ5 ⑳ドバト5 ㉑ガビチョウ1 以上21種126羽
※配列は現在の日本鳥類目録改訂7版によります

2021年3月26日 <調査時間>8:45~10:20
①カルガモ5 ②キジバト3 ③カワウ4 ④アオサギ3 ⑤ダイサギ5 ⑥トビ3 ⑦ノスリ1
⑧モズ2♂♀ ⑨ハシボソガラス11 ⑩ツバメ3 ⑪イワツバメ25± ⑫ヒヨドリ4
⑬ムクド15 ⑭ツグミ1 ⑮ジョウビタキ1♂ ⑯スズメ30 ⑰キセキレイ1
⑱ハクセキレイ3 ⑲セグロセキレイ1 ⑳ホオジロ2 ㉑ドバト3 以上21種98羽 

2021年3月の記録より
 カワウはかつて浅川にはいませんでした。1970年代東京湾のカワウは一時絶滅寸前まで
激減しましたが、その後復活し多摩川にも姿を現すようになったのです。私が浅川で初め
て本種を見たのは1985年5月4日、“おお、浅川までとうとうやって来たか!”と感激した
ことを憶えています。
 かつて東北から北で繁殖をしていたアオサギは、近年まで浅川では冬に極稀に見ること
のできるサギでした(いつ頃から留鳥になったかこれから調べます)。鳥見でアオサギに
出会うと何か得をした気分になりました。そのご繁殖分布を南に広げ、現在は日野市内の
多摩動物公園で営巣をしています。さらに多摩モノレールで多摩川を越えた立川市の柴崎
体育館付近にアオサギのコロニーができています。アオサギも身近な野鳥になりました。
 
余談ながら、昔と今の3月26日を比べると…
 古い手帳には、カモ類激減、オナガガモ162羽(3/19)→19羽(3/26)になる、カワセ
ミをわくわくしながら観察した、コチドリとイカルチドリをじっくり見比べる。散歩の犬
がタマシギを追い立てたので頭にきた、カシラダカ、カワラヒワが激減した、などの記載
がありますが、全く覚えていません、記憶にありません!参りました。
 今年の3月26日は晴天で浅川堤防の桜は満開、1953年の統計開始以降、今年の3月14日の
開花宣言は昨年に並ぶ史上最速記録になったということで、季節は春爛漫!ただコロナ禍
で酒を交わす花見はご法度、このような時代が来るとは夢にも思いませんでした。
 

1) 多摩川との合流点から2.8㎞の杭、対岸の三角屋根が日野市民プール、ここから左
(上流)に歩く ※写真は3点とも21年2月撮影

2)合流点から3.8㎞に架かる一番橋、全長137m

3)最終地点の4.4㎞の運動場、ここまで歩きます