金子凱彦の野鳥調査  102回
                               日野の自然を守る会 金子凱彦

●東豊田緑地保全地域の野鳥調査
<調査地とコース>
 同保全地域は日野市のほぼ中央部に細長く広がる日野台地の段丘崖の一部で、1975年に東京
都により緑地保全地域に指定されました。東豊田3丁目、多摩平2丁目、7丁目に隣接した黒川清
流公園、多摩平第6公園、清水谷公園の約
60,000㎡の雑木林です。黒川清流公園の崖下には数カ所
から湧水が流れており、池が4カ所あります。東から「ひょうたん池」、「大池」、「わきみず池
」、「あずまや池」の名が付いています。
調査は黒川清流公園の東端の中央線脇にあるひょうたん
池から西へ黒川防災広場(現在マンション建設中)、多摩平第6公園、山王下公園、清水谷公園の
池まで約
1.7kmのコースを1時間で歩き、その間に出現した、野鳥の種類と数を記録します。


黒川清流公園内の表示板に説明を増やし作成

●調査日 2016年4月10日 くもり

<調査結果>
(1)カルガモ3 (2)キジバト3 (3)カワセミ1♂ (4)アオゲラ1 (5)コゲラ1
(6)アオゲラ2 (7)ハシボソガラス7 (8)ハシブトガラス2 (9)シジュウカラ6 (10)ヒヨドリ47
(11)ムクドリ3 (12)ツグミ3 (13)キセキレイ1 (14)ハクセキレイ2 (15)ドバト9
(16)ガビチョウ2


<備考>
○大池で久しぶりにカワセミの雄を観察する。繁殖の時期であるがどこで…。昨年は4月6日に本種
 の交尾を観察している。
○アオゲラ2羽が行動を共にしていた。ペアであろう。
○ヒヨドリが神明野鳥公園から中央線を越えて黒川公園へ次から次へと飛来する。ひょうたん池か
 ら大池の区間でヒヨドリを42羽数えた。桜の木に群がっていたり、大池西側の湧水で水浴びをし
 ている本種が多数いた。春の渡りの途中に立ち寄ったのであろう。なお翌日(4/11)の調査では
 この区間でのヒヨドリの数は4羽であった。
○今春は大池から東側にハシボソガラスが大池から西の湧水にかけてハシブトガラスが繁殖縄張り
 を作っているようだ


●調査日 2016年4月18日 快晴

<調査結果>
(1)カルガモ2 (2)キジバト5(3)カワセミ1♀ (4)アオゲラ1♂ (5)ハシボソガラス2
(6)ハシブトガラス5 (7)シジュウカラ6 (8)ヒヨドリ9 (9)ウグイス1 (10)ムクドリ5
(11)ツグミ2 (12)スズメ2 (13)ドバト3 (14)ガビチョウ1

<備考>
○カルガモは大池1羽、あずまや池1羽であった。
○大池でカワセミの雌を観察する。池に突き出た横枝に止まり、盛んに羽づくろいをしていた。
○アズマネザサの残っている大池の西斜面でウグイスが囀っていた。フィールド外であるが、中央
 線の線路を超えた東側の神明野鳥公園からもウグイスの声が聞こえた。
○渡りの途中寄ったのであろう山王下公園内の水路わきで採食している2羽のツグミを観察する。


●調査日 2016年4月25日 快晴

<調査結果>
(1)カルガモ2 (2)キジバト8 (3)カワセミ1 (4)アオゲラ2♂♀ (5)モズ1
(6)ボソガラス2 (7)ハシブトガラス4 (8)ヤマガラ1(9)シジュウカラ4(10)ツバメ1
(11)ヒヨドリ26+ (12)ウグイス1 (13)ムクドリ4 (14)シロハラ1 (15)アカハラ1
(16)ツグミ1 (17)キビタキ1♂ (18)スズメ3 (19)ハクセキレイ1 (20)ドバト14
(21)ガビチョウ3

<備考>
○モズの幼鳥の声が聞こえた。まだファミリーは営巣地周辺にいるのであろう。今年は東豊田緑地
 保全地域内の2か所でモズが営巣しヒナが巣立った(写真1.2)。


(1)給餌を受ける巣立ちビナたち 4月20日 撮影:岩井満男さん


(2)巣立ちビナ 4月22日 撮影岩井満男さん

○久しぶりにヤマガラを観察する。単独行動であった。黒川における本種の営巣はいまいちわから
 ない。今の季節にもいるのであるから営巣をしていると推測するが…。
○清水谷公園の池の上を1羽のツバメが横切る。隣接する豊田駅周辺ではツバメの営巣が数か所で
 始まっている。
○渡り途中のヒヨドリが順番を爭うように次から次へと湧水に飛び込み水浴びをしていた。10分ほ
 ど観察していると一斉に姿を消す。朝風呂をすまし長旅に出発したのか。
○多摩平第一緑地でシロハラを発見する。ネザサのブッシュわきでせっせと餌をとっていたが人の
 気配でブッシュに隠れてしまった。渡りの途中であろう。
○新緑の林内で突然アカハラの囀りが響きわたる。昨年は4月20日に本種の声を聞く。本日はツグ
 ミ類3種を観察することができた。まさに春爛漫、これから黒川は渡り鳥たちの季節になる。
○あずまや池に立つと私を待っていたとばかりに、目の前の細い横枝にキビタキの雄が飛来する。
 新緑の葉が揺れる。ラッキー!ただチョット色合いの薄い個体である。今年の黒川はキビタキの
 飛来が早いようだ。


<参考>
本会発行の「日野の自然」5月号に黒川清流公園の下草刈りに付いて投稿したので転載します。
ご意見をお寄せ下さい。

黒川清流公園の保全を考える(1)
                    金子凱彦
 突然、黒川清流公園の「わきみず池」周辺の下草が大規模に刈り取られ、林床が丸裸になった。
私は黒川清流公園(以後黒川公園もしくは黒川)をフィールドに野鳥の観察を長年しているが、初
めての出来事である。池には何筋もの湧水が流れ込んでおり貴重な水辺の植物の宝庫として知られ
た所だ。キセルアザミやカキランなどの貴重種を守る“聖域”と私は勝手に思い込んでいたので驚
き、日野市役所に問い合わせをした。黒川公園を含む東豊田緑地保全地域(以後保全地域)を所管
する東京都の環境局と都のボランティアの発案で実施されたが、市としてもアズマネザサをこのま
ま放置しておけないと前々から考えていたとのことである(写真1、2)。
 多少植生への配慮はあったにせよ野鳥や昆虫など他の生物への配慮は全くない。げんに市内でほ
とんど見られなくなったミドリシジミ(シジミチョウ科)の幼虫の食草であるハンノキの幼木がす
べて消失していた。なおハンノキは現在市内でほぼ消滅しここ黒川にしかない貴重な木になってい
る。
 
 
(1)見事に刈り込まれたわきみず池(手前)一帯 2016年3月

 
(2)東豊田緑地保全地域の看板とアズマネザサが刈り取られ見通しのよくなった斜面
 2016年3月

○野鳥の宝庫
  黒川公園東端の中央線わきにある「ひょうたん池」から西へ「大池」「わきみず池」「あず
 まや池」と歩きながら出現した野鳥の種類と個体数を記録する調査(ロードセンサス)を毎月
 行っている。常に下草が刈り込まれ手が加えられている「ひょうたん池」から「大池」の区間
 (写真3)に比べて、手つかずの「わきみず池」周辺に来ると野鳥が俄然多くなる。昨年の2月
 19日の記録を見ると、「ひょうたん池」から「大池」で5種(マガモ、カルガモ、キジバト、
 シジュウカラ、ツグミ)合計14羽であったが、「わきみず池」周辺では倍以上の12種(カルガ
 モ、キジバト、カワセミ、ハシブトガラス、ハシブトガラス、シジュウカラ、ヒヨドリ、ウグ
 イス、シロハラ、ツグミ、ルリビタキ、ガビチョウ)合計20羽を数えた。下草刈りの終わった
 今年の2月18日の調査では「わきみず池」周辺で3種(カルガモ、ツグミ、シジュウカラ)合計
 4羽に激減していた。短絡的に下草刈りが原因とは云わないが、影響は大である。

 
 (3)ひょうたん池~大池の斜面は見事に丸坊主になっている 2015年2月

 池にはカルガモの姿が周年あり春には水辺で営巣をしている。地表に巣を作り抱卵するカルガ
 モにとって隠れ場のない今の環境では天敵に丸見えで営巣が不可能になった。4月になると池か
 ら姿を消してしまった。
 
 
 △わきみず池のカルガモの親子  2011年7月

○渡り鳥の中継地
  さらにこれから春になると心配である。黒川公園は多くの夏鳥の中継地になっている。南の
 国で冬を過ごした鳥たちが繁殖のために国内の山地や北に戻る途中黒川に立ち寄るのだ。代表
 的な夏鳥はキビタキ(ヒタキ科)で、低山のよく茂った広葉樹林で繁殖をする。一昨年「わき
 みず池」周辺で4月下旬から6月まで美しい声で囀っていた。付近は若葉がおおい茂り本種が好
 む環境なのでこのまま留まるのではないかと期待したが去ってしまった。いずれ黒川で繁殖す
 るであろうが環境の激変で当面無理になった。
  かつて薄暗くなった林から“ブォーッ、ブォーッ”とウシガエルのような不気味な声が鳴り
 響き話題になったことがある。正体はミゾゴイ(サギ科)であった。越冬地のフィリッピンか
 ら繁殖のため日本に渡って来る夏鳥だが、営巣地の環境悪化でその数を減らし、今や環境省の
 レッドリストで絶滅危惧種に指定されている。黒川には極稀に春と秋に立ち寄のである。7年前
 の秋には2日間滞在し、地面からせっせとミミズ類を引っ張り出していた。越冬地に帰るための
 体力を付けているのであろう。絶滅危惧種にとっても黒川はかけがいのない所なのである。

○黒川で繁殖する野鳥
  黒川を含む保全地域で確認された野鳥はおよそ80種で、そのうち留鳥は現在20種ほどである。
 当然雑木林の鳥が多いが、その代表がアオゲラ(キツツキ科)である。本種は日本固有種(日
 本列島にしか生息していない)で黒川では近年繁殖をするようになった。2013年からは足環の
 付いた雄が毎年営巣しており、今年も…と期待しているが草刈り以後めっきり声を聞かなくな
 った。
  モズ(モズ科)は昆虫や小鳥をも餌にする小さな猛禽ともいわれ、生態系の上位に位置する
 鳥である。まだ木々の葉が茂っていない早春から繁殖に入るので、2メートルもあるアズマネ
 ザサに巣を作り子育てすることがある。今回の草刈りで斜面のアズマネザサは消滅してしまっ
 たので、どこで営巣をするのか?黒川を見捨てしまうか。そういえば身を隠すための下草が必
 要なコジュケイ(キジ科)は7年ほど前に黒川から姿を消している。今となってはチョットコ
 イ、チョットコイのけたたましい鳴き声が懐かしい。そして笹薮を好むウグイスの声も近年めっ
 きり減った。植生の視点から何かと目の仇にされるアズマネザサであるが、黒川の野鳥にとっ
 ては貴重な環境なのだ。

○以下は7月号に続きます。

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